いま日本アニメが浮世絵の轍(てつ)を踏もうとしている [随想]

いつも私のブログを訪問頂くながぐつさんが「日本の芸術政策に思う」[1]と題して記事をお書きでした。私も意見があるのですが、長くなりそうなので、ながぐつさんへのコメントではなく、自分の記事にしてみたいと思います。

ながぐつさんの記事は芸術政策全般とともに特にアニメの殿堂に関して述べておられます。本日の私の記事はそのうちアニメの殿堂について書いてみたいと思います。芸術政策全般はまた別記事にしたいと思います。

アニメの殿堂は、特に当時の首相が漫画好きだったため、それに関連づけ、つぶすためにマスコミにより付けられた不名誉な名前です。本当の名前は国立メディア芸術総合センターといいます。ちなみに当時の首相が漫画好きだから計画したものではなく、その首相が首相になる前から計画は立ち上がっていました。ここから世の中には誤解があります。

実は設立者の中によく知った知人がおり、当時、その知人が記者会見でマスコミに悪者にされているのを見ているのはとてもつらかったです。私も知人がいるからこそ、この問題について深く考えることができました。私の意見は国立メディア芸術総合センターは必要だと言うことです。

しかしながら、政権交代の1つの象徴にされたことも知っており、そういう案件が政治上復活しないことは明らかです。現実的には、この案は一度白紙撤回し、形を変えた提案をすることが政治的には重要です。そして復活するためには、政治家、官僚が動く必要があり、官僚を動かすものは、1つ目が情熱、そして、適切な作文です。やはり、計画が正しいことを作文で証明する必要があります。また、国民に理解を求めるためには、簡単な理屈で構成されたコピーが必要です。その理屈は必ずしも正確なものである必要はなく、人の心を動かす理屈が必要です。そこで、それを作ってみようと言うのが、今日の記事です。もちろんこんな匿名ブログに書き込んでも社会的影響力は全くないのは知っています。

コピー
「いま日本アニメが浮世絵の轍(てつ)を踏もうとしている」

作文
「浮世絵がゴッホをはじめとする西洋の印象派の画家達にジャポニズムとなって強い影響を与えたのは周知の事実である。西洋の画家達を写実から開放したのは日本の浮世絵であったといっても過言ではあるまい。しかしながら、日本自身が浮世絵の価値が分からず、西洋画に価値を求めたため、浮世絵は衰退し、職人も離散し、版木をはじめ、浮世絵を構成する物品は廃棄、離散していった。わずかに西洋の美術館に持ち出されたものが現在重要な浮世絵の版木の一部となっているのは悲しい現実である。

浮世絵は立体感をあえて出さず、写実でなく、デフォルメしたところに価値がある。そして、その性質をそのままに動画として動き出したのがアニメーションである。日本のアニメーションは世界の最高水準であり、世界中で見られていることは日本人が誇るべき事実である。しかし、セル画をはじめ現場で使われている物品は離散・廃棄されつつあるのが現実で、また、そこで働く人の待遇は満足できるものではない。いまこそ、アニメーションは日本国が後世に残すべき文化であることを、日本人自体が認め、保存、復元に努めるべきである。また、人材の育成も国家の重要な課題であり、その中心となる施設は必要不可欠である。そこでここに国立アニメーション美術館の設立を提案するものである。」


どうでしょう。メディアと大きくつかんだ前案からアニメーションに特化させ前の案と区別しました。国立漫画喫茶と言われた現実を踏まえ今回は漫画には我慢して頂くのが適当でしょうが、いずれは漫画の保存も必要でしょう。また、浮世絵の例を挙げ、今の状況に焦燥感を抱くようにしました。

突然、変な作文をしたのでびっくりされた方も多いかも知れませんが、世の中の流れに逆らって考えていることを書いてみました。


[1] ながぐつ:日本の芸術政策に思う, 10/09/25


2010-09-30 00:00  nice!(12)  コメント(22)  トラックバック(0) 
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nyankome

(政治家は)文化を真っ先に切り捨てる国ですから。
文化と技術を切り捨てたら日本に未来はないですね。
by nyankome (2010-09-30 08:45) 

yablinsky

nyankomeさん、コメントありがとうございます。文化は切ってもとりあえず経済活動に悪影響はそれほどないですからね。人々の心を豊かにしている面を無視すると、中長期的は社会のあちこちで問題が出てくるのだと思います。
by yablinsky (2010-09-30 22:36) 

yablinsky

tamanossimoさん、江州石亭さん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-09-30 22:37) 

Enrique

マスコミの強引な世論形成には目に余るものがありますが,この件もその例ですね。
経済がぱっとしない中,マンガなどが世界中に与えているインパクトからすれば,このくらいのもの作っても別にばちは当たらないのかもしれません。しかし,作らなくても困る人が少ないせいか悪者にされてしまいました。理性的な議論でなく,感情論になってしまうのが困ったものです。
税金のムダ使いにしても,大きなものが見逃されて,細かく役にたつものをドンドン切り捨てていますね。


by Enrique (2010-09-30 22:44) 

Caelum

今の日本で、世界一と言えるものは何かと聞かれたならば
「漫画」「アニメ」と答える人ってかなり多いと思うんですよ。
乱暴な言い方ですが、今の日本において他に守るべき物が
どれだけあると言うのか。
この日本に、漫画やアニメを見ずに育った人間がどれ程いるのか。

「アニメの殿堂」という名前、皮肉で付けられた名前ではありますが
日本が誇る文化を冠したいい名前だと思います。
観光客が増えて、経済効果もそれなりに期待できるんじゃないかなぁ…
by Caelum (2010-09-30 23:42) 

yablinsky

Enriqueさん、888個目のniceとコメントありがとうございます。箱物があれだけのものが必要かどうかは別の問題ですが、計画のすべてを葬り去るのは、漫画・アニメーション産業を軽視するのと同等です。

税金の使い道は、必ず必要と思う人とそう思わない人がいます。国家の仕事はもっとも人々を幸せにするように最適化することと思います。国立メディア芸術総合センターは結構人々を幸せにすると思いますが、どうでしょう。

世論に逆らった記事に応援いただき感謝します。
by yablinsky (2010-09-30 23:59) 

yablinsky

Caelumさん、コメントありがとうございます。そうですね。「アニメの殿堂」、悪いイメージが定着しましたが、かっこいいですよね。

おっしゃるように一大観光地になりそうです。経済的に独立できれば、それこそ誰も文句はいわないでしょう。重要なアイデアありがとうございます。
by yablinsky (2010-10-01 00:03) 

optimist

官僚を動かす理屈の他に、財界を動かす利益も匂わせると実現性が高まるかもしれませんね。
嘘でも良いから、儲かりそうなネタを書いておくってやつですが・・・。
ところで、yablinsky さんの この記事に触発されて、最近流行のレアアースネタで連続企画を作ってみました。自分なりの考えを載せたりして・・・って予約投稿していたら、間違って一つだけ先にアップしてしまいご迷惑をお掛けした次第。
折角コメントいただいたのですが、一時公開待ちに変更したことをこの場を借りてお詫び申し上げます。

by optimist (2010-10-01 00:29) 

ぱえ

すいません、異論になってしまうと思うのですが、思い切ってコメントしますm(_ _)m

アニメやマンガの文化としての重要性はとても分るのですが、それに対して、公共機関が介在するとなると、本来の姿からかけ離れてしまう危険性もあると感じてしまうのですが(相撲などが良い例ですが)、どうでしょうか。。

ちょっと違うかもしれませんが、クラシックも音楽という学問(・・・と言ってよいのか分りませんが専門の大学が沢山有る時点でもう立派な学問だと思うので学問と定義させて下さい)となってからは、本来持っていた誰でも楽しめる自由さや気風が失われてしまってるのでは?と思います。
実際敷居の高さを感じますしね。
文化として保護されるということは、そういうリスクもあると思うのです。

勿論、学問と認知された上でのメリットはあると思いますが、本当に良いモノは特別な保護がなくてもさまざまな形で残っていくのでは?という気もします。
資本主義に侵されすぎな考え方でしょうか?^^;

勿論、国立アニメーション美術館が必要ない!という意味ではないのですが、本来の魅力が損なわれてしまうのでは?、という懸念があります。

一つの意見として聞いて聞いて頂ければ嬉しいですm(_ _)m
by ぱえ (2010-10-01 01:09) 

matcha

面白い記事だと思います。
日本が、アニメーションによって外国まで巻き込んだ
ひとつの大きなセンセーションでしょうね。
ただ、アニメというのは、分野も色々あり
yablinskyさんの思いをしっかり受けてくれるアニメもあり
期待を裏切るものもありではないでしょうか。
別に箱物を造ることを主眼にすると、yablinskyさんの言われる「轍をふまない」は実現は難しいのでは・・。
ある程度の組織力(ファンの大々的な組織、選挙での投票数に)と国際的フェスティバルなどの民衆の祭りの開催(組織の主催での組織力の活性化や年々開催によるファン層の確立、恒例的行事の国民に対する意識付け)を行う事によるアニメの芸術の定着と芸術としての志向を目指す作家やスタッフの活性、更なるアニメの将来の方向性を付けて行く必要もあるでしょう。
以上、ちょっと思ったことをコメントしました。
by matcha (2010-10-01 13:16) 

若鷹タカ子

>公共機関が介在するとなると、本来の姿からかけ離れてしまう危険性もあると感じてしまうのですが

こちらとは直接関係ないですが、村上さんというアーティストがベルサイユ宮殿でメイド人形などの案内板、ポップカルチャー系の展示をしたことが現地で物議を醸していたそうです。
でも池田理代子さんの漫画・「ベルサイユのバラ」の影響で日本特に女性がフランス革命関連歴史に異常に詳しかったりするから、どうなんでしょうね。池田先生の漫画でフランスへの日本人観光客相当いるわけで。

I agree with you
若鷹タカ子

by 若鷹タカ子 (2010-10-01 14:32) 

若鷹タカ子

何度もすみません、
上の投稿、内容順序を間違えています、失礼しました。

↓下のご意見に賛成です
>公共機関が介在するとなると、本来の姿からかけ離れてしまう危険性もあると感じてしまうのですが

I agree with you


by 若鷹タカ子 (2010-10-01 14:35) 

yablinsky

optimistさん、コメントありがとうございます。うそでもいいから儲かりそうなことは、空港整備や、道路建設でだいぶ批判さえていますから、うかつにうそがつける時代ではないでしょうね。でもCaelumさんのおっしゃるとおり本気で企画すれば客が呼べるのがアニメーションだと思います。
by yablinsky (2010-10-01 21:45) 

yablinsky

ぱえさん、コメントありがとうございます。私の意見自体が世の中の流れに逆らった異論ですから、ご意見大歓迎です。

そうなんですよね。歌舞伎も昔は娯楽だったんでしょうが、今では芸術鑑賞ですね。

アニメーションはまだまだ元気ですが、とりあえず、役に立たない過去のセル画を残そうとすることがコスト高につながってしまいますので、それは国家で保存しましょうという提案でした。

最近は漫画の講義が大学でありますね。ちょっと危なくなっているのでしょうか。

今後ともご意見くださいね。
by yablinsky (2010-10-01 21:52) 

yablinsky

matchaさん、コメントありがとうございます。国家が芸術を後押しし始めると、衰退が始まるかもしれませんね。たぶん国家はアーティストへ格安で場所提供するにとどめるべきでしょうね。それから、過去のセル画の保存のように廃棄されるものの保存も大事です。いずれにしても前面にでるのはよくないと思います。どこまで関与すべきかは難しい判断が必要です。

場所提供と保存に関しては箱物は必要です。箱物がどうも最近悪にされてますね。
by yablinsky (2010-10-01 21:58) 

yablinsky

若鷹タカ子さん、コメントありがとうございます。村上さんの件、ネットニュースでみました。作風は知ってますが、この事件の詳細は知りません。

公共機関は表に出ず、バックアップする姿勢が大切ですね。でも税金を使う以上いろいろ制限が出てくるのは常です。
by yablinsky (2010-10-01 22:02) 

yablinsky

galapagosさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-10-01 22:03) 

ながぐつ

こんばんは。
せっかくながぐつの記事を引用していただいたのに、コメントが遅れて申し訳ありません。
yablinskyさんのご主張、大変興味深く拝読させていただきました。
アニメーションに関してとやかく言えるほど、知識も経験もないのですが、アニメーションは日本国が後世に残すべき文化であることは十分認識しました。
そこで、問題となるのは、その貴重な文化を誰がどのように守っていくのか、と言うことだと思います。
誰が、という点では、その担い手が、国なのか、地方自治体なのか、民間団体(営利団体またはNPOなどの非営利団体)なのか、個人なのか、と言うことですね。国や自治体等の公共が担い手になるという場合、公益性がある(国民や住民の福祉に寄与する)、民間では採算に合わないと言うことだと思います。
アニメーションの保存が公益性があり、民間では担えない場合、では国なのか自治体なのか、という話になるわけですが、浮世絵のように2~300百年前のように、史実のはっきりしない場合と違い、アニメや漫画は作者がどこでどのような経緯でそれを作ったのか、比較的明確にわかっていると思います。ですので、その作家にゆかりのある自治体が、地域活性化の目的で使っている場合も多いようですね。

手塚治虫記念館は宝塚市立のようですし、境港市の水木しげるロードとか、春日部市がクレヨンしんちゃんを住民登録して住民票を売り出すとか・・・最後の例は不真面目ですが・・・最初の宝塚市のようにちゃんと保存しようとしているところもあるわけで・・・ つまり、かなりの部分、自治体でもできるのではないかと思ったりします。国が表に出るよりも、自治体あるいはNPOを国が必要に応じて人的物的資金的にバックアップしていくというのが、分権あるいは新しい公共の時代にふさわしいような気がしています。

いずれにしても、文化的価値のあるものを、何らかの形で公共が絡んで保存していくべきとの主張には、全く同意します。



by ながぐつ (2010-10-01 23:27) 

yablinsky

ながぐつさん、世論に逆らった記事にコメントありがとうございます。記事には書きませんでしたが、私のイメージとしては国会図書館ですね。国会図書館は学術雑誌からアダルト雑誌まで、出版されたものはブラックホールのようにすべて吸い取っています。アニメもアダルトものも含めすべて保存のイメージです。アニメも最近はコンピュータで作られるようになり、セル画がやたらと増えることもないと思われます。ここらは詳しくないですが。

本当にながぐつさんの長文のコメントに心から感謝します。今後ともながぐつさんに啓発していただくことを楽しみにしております。


by yablinsky (2010-10-01 23:58) 

yablinsky

Webプレス社さん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-10-05 21:48) 

yablinsky

アヨアン・イゴカーさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-10-06 07:37) 

yablinsky

あすてぃさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-10-09 00:39) 

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