コンピュータがピアノを演奏する時 [随想]

前に「コンピュータ支援型ピアニストは登場するか」[1]と言う題でコンピュータと演奏家の協力関係について考えてみましたが、今回は対立軸の中で考えてみます。

1997年にコンピュータがチェスの世界チャンピオンに勝ったというニュースが伝えられました。このときは衝撃的なニュースであったと思います。ただ、だからといって人間がチェスをやめる訳でもなく、世界チャンピオンの価値がなくなった訳でもなく、現在もチェスは世界中で楽しまれております。もちろんコンピュータやプログラマが人間の大会に出場できる訳ではありません(一部を除く)。

将棋の世界でもコンピュータプログラムの発展はすさまじくプログラム同士の世界大会のニュースが一般紙に載ったりします。まだまだ名人・竜王に勝てるレベルには達していないのですが、たぶん、名人・竜王に勝つ日もそのうち来るものと思われます。将棋連盟もプログラムとの勝手な対戦を禁止するなど緊張が伺えるますが、たとえそのXデーが来ても、将棋のプロの社会的地位が落ちることもなく、プロのタイトル戦にプログラムが出場できる訳でもありません。

昔はその実用性から珠算を習っていた人も多かった思いますが、現在では人間が高速に計算できる実用的な意味は見えません。徐々に珠算をやっている子どもの数は減少していますが、町のそろばん塾は減少したとはいえ残っています。私は珠算は日本の伝統技能としてこれからも残っていくものと考えています。もちろん全日本珠算選手権大会にコンピュータは入れてもらえないのです。

さて、電子ピアノやソフト音源の発達はすさまじく、これから10年程度で本物のピアノと変わらなくなると予想しています。つまりDTM(desktop music)で本物のピアノと同じ音が出せる時代が迫りつつあります。私など腕が悪い人間は別として、DTMを極めた人が、音の出力としてはピアニスト同等またはそれ以上の演奏が行われる時代がくるかもしれません。そしてそのような人のCDが売り出されるかもしれません(現に売り出されている)。しかし、舞台に電子ピアノが置いてあって、演奏者がボタンを押したら演奏を始めるリサイタルへ人はいくでしょうか。機械が演奏した曲のCDを買うでしょうか。もちろん答えはNOです。チェス、将棋、珠算の例からも明らかなように、ピアニストはDTMの演奏者を相手にする必要はないのです。

今回の随想は自分への戒めも込めて書いてみました。

[関連情報]
[1] コンピュータ支援型ピアニストは登場するか, 10/01/07


2010-07-08 00:00  nice!(13)  コメント(25)  トラックバック(0) 
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nyankome

>れから10年程度で本物のピアノと変わらなくなると予想
そうなったらDTMの表現の幅が凄く広がりますね。
コンサートという場は一期一会の特殊な場です。
演奏者は毎回同じ演奏をできるわけでなく、また観客も含めたトータルの環境で成り立っています。そこが醍醐味ですよね。
コンサートとDTM、きちんと棲み分けはできると思います。
by nyankome (2010-07-08 01:24) 

Caelum

技術の方向性が違いますもんね、ピアニストの技術は
その場で新たな音を、新たな音楽を生み出す技術…
毎回同じ演奏は出来ませんし、する必要も無いでしょうし。
変化する、ダイナミックな技術。

一方DTMの技術は、最高の1回を作り出す技術で
その1回が達成されれば、何度演奏しても同じ。
変化しない、スタティックな技術。

人は感情の生き物なので、ダイナミックな技術の方が
重んじられるのも無理は無いのかもしれません。
人にとって、偶然や奇跡は、絶対や必然に勝りますから…
でも、究極により近いのはDTMだと思います。
by Caelum (2010-07-08 01:26) 

yablinsky

nyankomeさん、コメントありがとうございます。10年と申しましたのはピアノの場合で、他の楽器の音源もすごいスピードで発展してますが、他の楽器はもっともっと時間がかかると思います。まさに、リサイタル・コンサートは一期一会ですよね。たまには演奏家も失敗したりするし、その緊張感が観客に伝わったりする。本当に醍醐味です。観客はコンピュータの完璧な演奏など求めていません。すみわけというより演奏家はDTMは無視しておけばよいのです。少なくとも敵として目くじらを立てる必要はありません。やはりDTMはオケを一人で支配できたりする趣味の世界なのでしょう。また、作曲の世界に楽器ができない人が参入できる可能性は見せてくれます。
by yablinsky (2010-07-08 02:34) 

yablinsky

Caelumさん、コメントありがとうございます。やはりダイナミック方がいいですよね。リサイタル・コンサートの前の演奏家の緊張感。そして成功したときの達成感。失敗したときの悔しい思い。それらが観客に伝わり、観客は感動したり、怒ったり、同情したり、これが醍醐味ですね。素人の演奏にしてもその下手さから人間性を感じたり、観客も自分から楽しもうしたりするのですよね。幼稚園の演奏会。最高ですよ。やはり音楽は人が奏でるものでしょう。でもyablinskyはどこに行けばいいのでしょうね。
by yablinsky (2010-07-08 02:42) 

matcha

困りましたね。皆さんの仰るのも、ごもっともです。
僕も、人が奏でるものを音楽とし、DTMは音楽ではない。
と、言いたい。
コンピュータのシステムは、企画・提案にあり、人が気に入ると売れるという。ジェラシック・パークが、コンピュータを駆使したように、鑑賞用の疑似体験は存在するのは、困ったことに事実ですよね。
例えば、ベートーヴェンの全作品を解析し、ベートーヴェンの交響曲第10番というのをDTM.von.Karayanというのが、演奏するDVDが出たら買う?映画館で上映されたら行く?
これは、発想が貧弱な私が考えたものですから、変かも知れないけど・・・。まともな人が考えると、もっとハイレベルなもので、度肝を抜かれることだって考えられるのでは・・・。
世の中、自由主義というか、よっぽど社会に悪影響を与えない限り、発想や創造に規制はないですから・・。

すみません。空気を壊しちゃいましたか。でも、僕は、何となく嫌な予感がしてます。

by matcha (2010-07-08 15:19) 

ワカタカタカコ

佐世保BASE ノ 小学校、ソロバン教えてます、。外交利用カモシレナィケド。。公文式通わせる親モィマス。。。計算算数アメリカデハ、アマリやらないから、ですと。。。危機感ハアルミタィ?
by ワカタカタカコ (2010-07-08 17:42) 

yablinsky

matchaさん、興味深いご意見ありがとうございます。ベートーヴェンの第10番どこかで聞きました。たしか、コンピュータがベートーヴェンの作曲パターンから自動作曲したものがあったようなかすかな記憶があります。それを仮想カラヤンが指揮ですね。とても興味があります。ちょっと反論させていただくと、このベートーヴェンの第10番をカラヤン調で小澤征爾が斉藤記念で演奏したらこの方がもっと観客が呼べると思います。つまり、どこまで行っても人間には勝てないような気がします。技術の進歩から常に新しいものが生まれるのは常ですね。いろいろ想像すると楽しくなります。でもやっぱり人の価値観は演奏家の演奏が一番と感じるのでしょう。ボルトは犬より足が遅くてもやっぱりボルトはすごく、北島が魚より泳ぐのが遅くてもやっぱり北島はすごいのです。これが人の持っている価値観かもしれません。わたしこそ空気壊しちゃってすみません。お付き合いいただき本当にありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-08 20:57) 

Enrique

先日教育TVの番組で80年代のテクノポップがはやった時期の様子をやっていました。音楽の道具としてシンセやリズムマシンを使いだしたわけですが,一通りやった後彼らは普通の楽器に戻ってしまいました。マシンでやってみて,逆に人間の演奏が良くなったのですね。今のコンピュータは当時よりもはるかに進んでいますら,十分人間らしい演奏は可能と思いますが,むしろ演奏行為自体の問題と思いますね。
歌を歌う,楽器を演奏する,シンプルな行為で直接音を奏でられるという生演奏の価値は,DTMの演奏が生演奏とそっくりになると,むしろ増大するのではないかと思います。あまり完璧すぎるより,少しミスがあったりした方が良かったりしますので(ありすぎるのも困ったものですが)。 即興(的)演奏なども人間の特技ですね。
by Enrique (2010-07-08 21:00) 

Caelum

すみません、少々書き方が悪かったかもしれません。
ダイナミックな技術と、スタティックな技術の間には
優劣の関係は無いと思っています。

DTMにより生み出された素晴らしい作品は沢山ありますし
それらが生演奏に劣るとは、少しも思いません。
音そのものの発生源が人の手か、機械かという事よりも
どんな意図で、何のために生み出されたかが重要だと思います。

俺はDTMと出会えたから、曲を作る楽しさを知る事ができました
幼い頃からの演奏する事への憧れも、DTMと出会っていなければ
思い出す事は無かったと思います。
DTMをそんなに蔑まないで下さい…お願いします。
by Caelum (2010-07-08 21:00) 

yablinsky

ワカタカタカコさん、コメントありがとうございます。アメリカの子供たちにそろばんを教えていらっしゃるのですか。確かにアメリカでは基礎計算力をつけることは最近は関心がありますね。これは私も必要と思うのですね。計算の原理と基礎的演算法は理解していないとコンピュータをつくることはできませんからね。
by yablinsky (2010-07-08 21:03) 

yablinsky

Enriqueさん、コメントありがとうございます。テクノポップの時代、YMOの音は当時はものすごく新しいものに聞こえました。これからのあたらしい音楽の方向性が見えたような気がしました。シンセサイザが当たり前になると普通の楽器と同時に演奏されるようになって、いい感じで落ち着きましたね。従来の楽器は決して滅びませんでした。別の視点からDTMは楽器の演奏の研究に長所があると思います。ピアノの場合、テンポ変化と強弱で考えますが、普通の演奏家がDTMで演奏を研究することにより、一流演奏家になれるかもしれません。
by yablinsky (2010-07-08 21:13) 

yablinsky

Caelumさん、再コメントありがとうございます。趣味としてDTMをやっていくことは、楽器を趣味として演奏するのと変わらないと思います。同意します!私もDTMが趣味ですから、自分をそれほどさげすむつもりはありません。今回の記事はDTMを趣味を越えてプロとして一流演奏家と張り合えるかという視点で書きました。そういえばそういうことがはっきり書かれていませんね。作曲に関してはDTMはプロも使っていますので、通常のツールですね。というよりメインツールになりつつなりますね。そういう意味ではCaelumさんの使い方は超一流にもなれる使い方で私の使い方は超一流にはなれない使い方です。でも趣味であり、超一流を目指していませんのでこれでいいと思っています。でもひょうたんからこまってことをあるかもしれません。
by yablinsky (2010-07-08 21:24) 

yablinsky

tamanossimoさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-08 21:36) 

Cecilia

DTM、電子オルガンをオケ代わりにオペラで使うことが多いように伴奏としての役割で需要が増えると思います。
(もうそうなっているかも?)

by Cecilia (2010-07-09 16:22) 

yablinsky

Ceciliaさん、コメントありがとうございます。最近のDTMソフトを使えば、楽譜をスキャナーから読み込めばすぐに演奏できたりします。もちろんいわゆるべたうちですが・・・伴奏にDTMは誰でも使える時代が来つつあります。私も勧められて伴奏用の演奏を入力しようとしたところでインフルエンザになってしまって企画が保留になっています。
by yablinsky (2010-07-09 18:16) 

optimist

手軽に演奏を楽しむ事が出来るという意味で、自動演奏や完全にプログラムで曲を作る事は意味があると思います。
が、確かにそれをわざわざ聞きに出かけようとは思いませんね。
by optimist (2010-07-10 00:31) 

ながぐつ

おはようございます。
Ceciliaさんとyablinskyさんのやりとりでわかるように、DTMと人間の演奏は必ずしも棲み分ける必要はなく、むしろジョイントすることでさまざまな可能性が広がってくると思います。

DTMに限らず、MIDIやmp3などデジタル音源の規格ができたことや、多重録音の技術が発達したことで、この20年ぐらいの間にいろいろな音源が手軽に入手できるようになり、良い悪いは別として、やろうと思えば、ホロヴィッツの伴奏でオーボエを吹くなんてことも可能になりました。
しかし人間の演奏家が録音していない曲は多数に上り、また録音があってもテンポなど、自分の力量や音楽性に合わないことも多々あります。伴奏付きCDも多く出ていますが、同じ問題を抱えています。
そこでDTMに大きなメリットがあるとながぐつは考えています。テンポもダイナミックスも音色も変えることができるのは、DTMならではの強みだと思うからです。
DTMはあらゆる音楽仲間のコミュニケーションツールとして無限の可能性を持っており、これからも人間とDTMのハイブリッドな演奏がより発展していくのではないでしょうか。

by ながぐつ (2010-07-10 08:37) 

yablinsky

optimistさん、コメントありがとうございます。音符のみをそのまま打ち込んだ、いわゆるべたうちの演奏は手軽に楽しめますが、人間の演奏に迫ろうとするとそれなりに調整に時間がかかり、結局、演奏家が練習する時間の長さと変わらないと思います。コンピュータを使おうと手軽に演奏はできないというのが今のところの印象です。これからもちろん人工知能的手法もあるかとは思いますが・・・どう発展するか楽しみです。
by yablinsky (2010-07-10 10:20) 

yablinsky

ながぐつさん、コメントありがとうございます。人間とDTMのジョイントはおかげで最近興味が出てきました。人間同士ならその場でこう演奏しようと決めて、すぐに演奏に入れますが、DTMの場合は演奏の方向を決めてから、PCをひたすらいじらなければならないのでなんだかその場の雰囲気を壊します。やはり、ネットを通したお付き合いに向いているかもしれません。J-POPでもDTMで最初は作られる曲が多いと聞きます。また、DTMのまま、売り出される曲も結構あります。J-POPは一歩先を行ってます。このやり方がクラシックにも通用するか面白そうです。

by yablinsky (2010-07-10 10:26) 

yablinsky

ぼんぼちぼちぼちさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-10 10:26) 

yablinsky

hetianさん、DAW-DTM-monkeyさん、niceありがとうございます。

by yablinsky (2010-07-10 18:57) 

matcha

ベートーヴェンの第10番があったとしても、カラヤン調で小澤征爾が斉藤記念で演奏することは、ないでしょう。
by matcha (2010-07-12 19:24) 

ワカタカタカコ

書き方ガ、紛らわしくテ、ゴメンナサィ。。。算盤教えてるトィウ報道ミマシタ。 勿論、 not me
by ワカタカタカコ (2010-07-13 17:17) 

yablinsky

ワカタカタカコさん、了解です。
by yablinsky (2010-07-13 21:51) 

yablinsky

ギタラちゃんさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-08-11 23:41) 

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