マーラー:交響曲第1番「巨人」Der Titan [マーラー]
先日、マーラー全集を買った記事[1]を書きましたが、その1枚目のCDが交響曲第1番と花の章です。
Rafael Kubelik
CD-1
Gustav Mahler Complete Edition,
Deutsche Grammophone
この「巨人」と言う題はマーラーが一般人にわかりやすくするために付けられた題名で後に削除されています。現在ではそのわかり安さからか復活してます。マーラーの交響曲は長いことで有名です。その中で「巨人」は55分程度と短く、マーラー入門にはもってこいです。また、マーラーの交響曲の特徴である独唱・合唱が入っていません。演奏する側からすれば、オケで完結するので声楽家を手配する必要がなく、第1番が選択されることがあるようにも思います。短いと言ってもそれでもマーラーは長いので、まだ、聞いたことがない人や、メロディを忘れた人、時間のない人は第4楽章だけ聞いてみることをお薦めします。
第1楽章
このシリーズは著作権法上、問題なさそうな演奏を見つけるのが、最大の問題となりそうです。今回の「巨人」は何とか見つけましたので、どうぞ聞いてください。一流オケの演奏を聞き慣れた人には違和感があるかも知れませんが、私の感想としては日本の音大のレベルもここまで高くなったのかという感動を覚えました。
洗足学園音楽大学管弦楽団特別演奏会
指揮:ウラディーミル・アシュケナージ
2009年 12月4日 洗足学園 前田ホール
のだめ風にいえば、アシュケナージなのでAオケって感じでしょうか。
最初の弦のA音の持続音は私の解釈では静けさ、自然の深さや神秘を表しているように思います。第1楽章では盛んにカッコウが鳴きます。カッコウの本当の鳴き声はEnriqueさんの最近の記事でお聞きください[3]。高く、低く、繰り返し、繰り返し鳴きます。豊かな自然を表しているのでしょう。エコが叫ばれる現代にぴったりの曲だと思います。マーラーは自然を愛していたのでしょうか。
マーラーの音楽は映画音楽のようにも聞こえます。いろいろ各自自分のストーリーを作りながら聞くのも1つの楽しみかも知れません。クラシック初心者には良い方法だと思います。自然を愛する「巨人」のストーリー。どんなのがいいですか。
マーラーの交響曲はパートごとに調号が違ったりします。これがこの不思議な雰囲気を作り出すのでしょうか。音楽の専門教育を受けたことがない私にはこれ以上のことは分かりません。
第2楽章
マーラーの曲はほとんどの曲が明るいのです。しかし深みもあります。深遠なる明るさが不思議な世界を作ります。この楽章もその典型です。そして、マーラーの交響曲は主旋律がしっかりしていて、楽器を次から次の主旋律が受け渡されます。そういう意味では演奏者には演奏しがいがある曲なのかもしれません。聞く立場でも、歌えるのです。主旋律がはっきりしているので、通勤の途中で頭の中でマーラーの交響曲を再生するのはそれほど難しくありません。
第3楽章
wikipedia[2]によれば、アメリカ人の子どもがよく歌う"Are you sleeping?"の原曲を短調にしたものだそうです。なるほど。今まで気が付きませんでした。しかし、どちらかといえば、東洋的な曲調です。古典派とは全く違ったメロディです。このちょっと変わったメロディはマーラーの交響曲全体に言えることで、マーラーは東洋人に理解しやすいかも知れませんね。第3楽章を聞くとマーラーは実は東洋人だったと思えてきませんか。
第4楽章
第3楽章の最後はとても静かで平和です。ついついうつらうつらとしてしまいそうです。その静寂を突然破るのが第4楽章です。戦闘的というよりも戦闘シーンといって良いでしょう。初心者の方はこれもいろいろストーリーをつくると面白いかも知れません。苦しい戦闘もいつまでも続きません。マーラーはいつも完全なる勝利で終わってくれます。勧善懲悪が好きな方はマーラーを聴くべきです。また、日頃の小さな勝利を祝ってくれます。ヒーローにしてくれます。さあマーラーの力を借りて今日はあなたもヒーロー、ヒロインです。そして最後は終わりそうで終わらない。かなりひっぱてくれるのはマーラーです。第1番にもその傾向が表れています。そういえばこの楽章で平和な部分でまたカッコウが鳴きますよ。
交響曲第1番はここで終わりです。しかし、このCDには関連するもう1つの曲が収録されています。
花の章
Seiji Ozawa
この曲は実は「巨人」の第2楽章であったものが、後に抜かれて独立したものです。確かに第2楽章に入れても全く違和感がありません。長いこと紛失したものと思われていましたが、第2次世界大戦後、発見されたそうです[2]。
知識のない私は専門的なことは語れません。主観に基づき自分はこのように聞こえるというようなことしか書けませんでした。今回はヒーロー、ヒロインになろうが最も言いたいことでしたが、マーラーの他の交響曲ではいろいろ聴き方が変わります。実力不足にめげず、このシリーズ続けて行きます。
[関連情報]
[1] Gustav Mahler Complete Edition, 10/07/11
[2] 交響曲第1番 (マーラー), wikipedia
[3] Enrique: カッコーの音程, 10/07/12
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カッコーの紹介いただきありがとうございます。
管の方はおなじみですが,パート毎に調号が異なるのは,「移調楽器」を使うからです。管楽器の基本は自然倍音列なので,管長で得意な調がきまってしまいます。ベー管とかエフ管とか言いますね。階名唱のように,例えばベー管でドレミファ(のつもり)を吹きますと,実音は♭シドレ♭ミとなります。実際の調より♭が二つ少ない(♯が二つ多い・一音高い)譜面を吹けば実音の調に合う理屈です。冒頭の主調は二短調で♭一つですが,ベー管のクラリネットは♯一つのホ短調で書かれているようです。カッコウは色んな高さで鳴いていますが,間隔は4度が多いようですね。
マーラーの時代はまだパートごとに調が違うポリ・ハーモニーではないと思います。
by Enrique (2010-07-15 15:33)
アシュケナージ、懐かしいですね。
天才ピアニストの名を欲しいままにしていたが、指揮者に転向しましたね。他にも、ダニエル・バレンボイムなんかもそうですね。
アシュケナージの指揮をじっくり聞くのは、初めてです。有難うございます。
マーラーは、長いですね。今4楽章を聞いてます。
yablinsky さんのお陰で、もうすぐ終わりますよ。2楽章は、聞いたことありますね。ワルツのようですね。
再度、全体を聞くときは、ちょっと辛いですね。今は、楽章バラバラなので一貫した形で聞くには、まだまだですね。
by matcha (2010-07-15 18:56)
Enriqueさん、コメントありがとうございます。なるほど、そういうわけなんですね。私は演奏の経験がないので、いろいろ教えていただき助かります。カッコウで1つ気になるのはもしかしたらヨーロッパのカッコウは4度違いで鳴いていないかということです。まあ、マーラーがカッコウっぽくしたというだけのような気がしますが・・・
by yablinsky (2010-07-15 21:15)
matchaさん、コメントありがとうございます。私はアシュケナージはショパンのノクターン集を持っています。指揮者としてのCDは所有していません。マーラー長いですね。今のように時間のない時代にはなかなかゆっくり聞けません。交響曲第3番などCD1枚には収まりません。マーラーを少しでも理解していただくとマーラーファンとしてうれしく思います。
by yablinsky (2010-07-15 21:40)
Webプレス社さん、optimistさん、hetianさん、nyankomeさん、江州石亭さん、tamanossimoさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-16 07:21)
マーラーの交響曲を一つだけというと、《巨人》をあげるひとが多いのではないでしょうか。比較的分かりやすいですものね。
マーラーの音楽には様々な音や音楽が混じっています。
カッコーの鳴き声であったり、俗謡であったり、ラッパの音であったり。
初めて聴いたときに、中学生の時に習った"Are you sleeping?"が出てきたのでびっくりしたことを思い出しました。
by nyankome (2010-07-16 16:24)
著作権 I even care when I attach stray cats
by ワカタカタカコ (2010-07-16 17:44)
nyankomeさん、コメントありがとうございます。"Are you sleeping?"は習ったことがなく、子供を通してここ十年で初めて知りました。そのため、マーラーと結びついませんでした。これは民謡だったのですね。
マーラーを語るには第2番は欠かせません。でも主題が宗教になりそうでブログにはいささか重いですね。
by yablinsky (2010-07-16 20:09)
ワカタカタカコさん、コメントありがとうございます。いい記事を書こうとすれば著作権に問題のある動画を使うのが一番ですが、今のところそこは避けています。なかなか難しいですね。
by yablinsky (2010-07-16 20:11)
おはようございます。
いよいよyablinskyさんのマーラー連載が始まりましたね。楽しみです!
この曲は、ながぐつが唯一、オケで演奏したことのあるマーラーです。 yablinskyさんのおっしゃるとおり、編成や長さからいって最もアマチュアで取り上げやすい曲だと思います。
この曲は先日NHK-BSの「名曲探偵アマデウス」でも取り上げられていました。
第1楽章ですが、ご指摘の静寂ですね。弦のロングトーンに乗って、フルートとオーボエが実音でラ→ミ→ファ→ドと吹くのですが、これが怖い怖い! ピアニシモでも、音程がぴったり合っていなくてはならないのです。その後、ご紹介のカッコウがクラリネットで4度音程で出てきますが、「名曲探偵アマデウス」によると、それまでの作曲家はカッコウを3度音程で表現していて、4度音程はマーラーが初めてのようです。例えばベートーヴェンの田園交響曲とか、そうですね。この4度音程が低弦で提示される主部の主題に反映されますね。この主題は「さすらう若者の歌」から取られたものでしたね。
第2楽章ですが、ややグロテスクなワルツですね。これも第1主題はいきなり木管のユニゾンですが、結構鋭く吹かなければならないので、疲れます(*^_^*) とくかくこの楽章はホルンで決まりです。(というか全楽章ですが・・・)
第3楽章、ご紹介の童謡を短調にしたものですが、いきなりコントラバスのソロで始まりますね。たぶんそんな曲はアマオケの演奏できる曲では滅多にないので、このソロを誰が演奏するかで、もめることでしょう。僕の当時入っていたオケの場合は、コンバス奏者の正団員は当時ひとりしかいませんでしたので、全く問題ありませんでした。第2主題のオーボエとトランペットの絡みは、吹いていて気持ちいいです(*^_^*)
第4楽章ですが、とにかく長い長い! 譜面、何ページあるのか?
めっちゃ疲れます! この楽章だけで、全体の半分を占めますからね。木管はまだまし、金管、特にホルンは死ぬと思います(*^_^*)
特に最後のところでは、「ホルンがすべてを(トランペットさえ)消してしまう」と楽譜に指示されています。ホルンは立って吹くように指示されているし、木管もベルアップが指示されています。ご紹介いただいた洗足学園音楽大学管弦楽団の演奏でもそうしていますね。さすがマーラー、とにかく指示が細かいです!
花の章についでですが、当初は花の章を含む5楽章形式で考えられていたようですね。ながぐつは、2楽章と3楽章の間に花の章を入れた、オーマンディのレコードを持っていました。
by ながぐつ (2010-07-17 09:08)
ながぐつさん、コメントありがとうございます。演奏者の立場からの解説すばらしいです。私は演奏できませんので、聴く立場からしか記事が書けません。今回もwikipediaなどいろいろ知識を得ることは簡単だったんですが、それではwikipediaと同じになるし、私の主観しか記事にする材料がないことに気がつきました。やはりブログは本文だけでなくそこに書き込まれるコメントも含めて記事として完成しますね。
第2楽章は私には明るく聞こえます。これはマーラーの曲全体にいえるのですが、ちょっと変なことをいえば、私にはマーラーの曲の大半はたとえ短調でも明るく聞こえます。素人のたわごとと思ってください。
この曲はホルンが主役ですね。きっとホルンの人には演奏のしがいがある曲ですよね。大変でしょうが・・・
巨人はメータの演奏を持っていました。昔のメータの演奏は大好きでした。
by yablinsky (2010-07-17 10:16)
アヨアン・イゴカーさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-17 10:17)
私もメータ=イスラエル・フィルのアルバムを持っています。
これは花の章付きですね。
by nyankome (2010-07-17 12:23)
マーラー映画は、やや難解。。。。「シャィン」ノホウガ、分かり易いカモ。
by ワカタカタカコ (2010-07-17 15:56)
nyankomeさん、再コメントありがとうございます。私のメータ=イスラエル・フィルですが、花の章なしです。1974年(Decca)の録音ですね。当時は輸入レコードって手に入らない頃でこのCDはキングレコードから出てます。いろいろなものがあるのですね。3000円もしてます。当時は定価で買うしかありませんでしたね。
by yablinsky (2010-07-17 16:53)
ワカタカタカコさん、再コメントありがとうございます。マーラーの映画は興味があります。というか富にマーラーに興味があります。そのうち見ると思います。シャインはなんとなく見たような気がしてなりません。映画館でなくDVDですね。
by yablinsky (2010-07-17 16:56)
cfpさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-17 16:57)
xml_xslさん、niceありがとうございます。
by yablinsky (2010-07-18 12:47)
ついついお姉さんに目が行ってしまいますが、演奏もなかなか
ハイレベルですね、音大生もやるもんですなぁ…素晴らしい。
by Caelum (2010-07-18 13:50)
Caelumさん、コメントありがとうございます。いやいや私も実はついついおねえさんに目が行きます。本能だから仕方ありませんね。洗足の近くに行くと楽器を持ったお姉さん方が電車に乗ってきます。楽器を持っているとかっこいいですね。
by yablinsky (2010-07-18 21:25)
マーラーの第1番と言えばテンシュテット/シカゴ響のライブは外せません。
シカゴ響の強力なアンサンブルとテンシュテットの素晴らしい深い解釈が合わさった
名演です!
by NO NAME (2011-10-09 15:25)
NO NAMEさん、休眠中のブログにもかかわらずコメントありがとうございます。テンシュテット/シカゴ響ですか、興味が湧いてきました。どこかネット上で聞けるいいのですが・・・
by yablinsky (2011-10-14 20:20)